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CROSS SONG 第七話

 お母さん――
 ミリィの呟いた言葉にカイルを大きく目を見開いた。
 あの黒いモンスターがミリィの母親? いや、あれは明らかに人間ではなかった。では、何故ミリィの父親はあのモンスターをサーニャと呼んだのか。
「ミリィ、お前の母親は、その」
「私が小さいときに亡くなったって、お父さんが……」
「じゃあミリィは母親のことを?」
 カイルの問いにミリィは小さく頷いた。
 ミリィの母親はミリィが物心つく前にこの世を去っているという。少なくともミリィはそう教えられ、信じていた。
 その母親が生きているかもしれない。しかもモンスターの姿になって。
 ミリィの心境は複雑なものだろう。
 体を小さく震わせ、ぎゅっとその小さな手を握り締める姿は、今すぐにでも真実を確かめに行きたいのを必死に我慢しているようだ。
 いや、本当は行きたいのかもしれない。だが、外の世界のことを何も知らないことが、恐怖や不安となってこの森を出ることを躊躇わせている。
「……俺と、来るか?」
 気が付けば、カイルはそう口に出していた。
 ハッとミリィがカイルを見上げる。不安に揺れる瞳。その瞳がじっとカイルを見つめてくる。
 何も感情論だけで言ったのではない。カイルはミリィの父親の姿をはっきり見ているわけではない。ミリィがいれば、父親を見つけることも容易になるのではないか。そしてミリィを連れていることで、もしかしたら父親の方から近づいてくるかもしれない。そんな思いがあった。
 しかし、それ以上に――
「……お前は、俺が守ってやる」
「カイルさん……」
 このとき、カイルは不思議な気持ちになっていた。
 自分の目的以上に、目の前の少女は自分が守りきらなければいけないのだという、不思議な感慨。
 こんな気持ちになったのは初めてだった。
 初めての気持ちに、戸惑いながらもカイルはミリィへと手を差し伸べる。そしてもう一度問いかけた。
「俺と来るか?」
 ミリィはおずおずと手を伸ばし、やがてその手をそっと掴んだ。

 そして全てが決まると、あとは早かった。
 ミリィは簡単な荷造りを終え、家の外へと出た。
 頭上には真ん丸いお月様。雲の隙間から覗く星々は、散りばめられた宝石のようで。
『ケー』
「お爺ちゃん……」
 Gコッケー爺を筆頭に、森からぞろぞろとモンスターたちが出てくる。
 ミリィはみんなへ自分が旅に出ることを話した。
 親しい彼らと会えなくなることは寂しいが、それ以上にミリィは父親に会って話を聞きたかった。
『ケー』
 モンスターを代表するかのように、Gコッケー爺が言う。
 ここはミリィの帰る家。自分たちはここでミリィの帰りを待っている、と。全てが終わったら、またみんなで暮らそう、と。
 Gコッケー爺の言葉にミリィはぽろぽろと大粒の涙をこぼした。
「ありがとう、みんな」
 これは別れではない。ミリィには帰るべき場所があり、待っていてくれる存在がいる。また会うことが出来るのだ。
 だから、
「行ってきます」
 ミリィは嗚咽交じりに、そうしっかりと口にしたのだった。
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CROSS SONG 第六話

 ミリィとの暮らしは当初の不安を他所に、円満なものだった。
 ミリィの家で世話になって、既に二十日は過ぎただろうか。
 カイルの傷はすっかり塞がり、今では失われた体力を取り戻すために薪割りなどの仕事を代わりに引き受けているほどだった。
「……そろそろなのかもしれないな」
 最後の薪を割り、カイルはそう呟いた。
 傷は癒えた。治療のために思わぬ時間を食ってしまったが、カイルは仲間を殺した黒いモンスターとそれを知るミリィの父親を追わなければならない。
「あ、カイルさん!」
 山菜やキノコの入った木製のかごを提げたミリィが森の中から出てくる。その後ろにはまだ小さいバウの子供たちがミリィの足にじゃれつくようにしてついて来ていた。
「ミリィか」
 慣れというのは怖いもので、最初はモンスターに懐かれ、共存しているミリィに恐怖を感じていたが、今ではもうそんな感情はなくなっていた。
 無垢な笑顔を向けてくるミリィにカイルも思わず微笑み返す。
 カイル自身はモンスターと馴れ合うということに抵抗を感じるが、モンスターと共存する――そんな人間がいてもいいようにカイルには思えてきていた。
 だが、
「カイルさん、東の森でね――」
「ミリィ」
 嬉しそうに話すミリィを遮るようにカイルはミリィの名前を呼んだ。
「そろそろここを出ようと思ってる。お前には世話になったからな。別れの挨拶ぐらいしておこうと思って」
「あ……」
 ミリィの顔に寂しげな色が浮かぶ。しゅんと肩を落とし、瞳を伏せると、力ない声で笑った。
「そっか。カイルさん、旅をしてたものね。元気になったら旅に戻るのは当たり前だよね」
 このとき、カイルに胸に小さな感傷が沸き起こった。
 この二十日間、ミリィは本当に楽しそうだった。
 カイルの話を聞き、まだ見ぬ光景に瞳を輝かせ、日々のたわいない会話で笑いあいながら食事を取る。
 人と人がいるからこそ生まれるもの。父親がいなくなり、ミリィが失ったもの。
 いくらモンスターと共存しているとはいえ、家の中ではミリィは独りなのだ。
 そしてカイルが出て行くことで、またミリィは独りに戻ってしまう。
「…………」
「カイルさん?」
 小首を傾げるミリィに、カイルは喉まで出かかった言葉をなんとか飲み込んだ。
(お前も来るか、なんて言えるかよ……)
 カイルの旅は恐らく非常に危険なものになる。そんな旅にこの少女を巻き込むわけにはいかない。傷つけたくはなかった。
 仲間の敵を討つという目的を捨てることはできない。結局、自分にはミリィを置いていくことしか出来ないということに、カイルはぐっと奥歯をかみ締めた。


 出発は明日の朝と決め、カイルはミリィと最後の食事を取っていた。いつも明るい食卓が今日ばかりは暗い。
「カイルさんは、ここを出たらどこへ行くの?」
 無理に明るく振舞うミリィだが、その表情に浮かぶ寂しさだけは隠しきれていなかった。
「まだ決めてない。とりあえずファーイーストで旅の準備を整えて、それからアクロシティへ向かおうと思ってる」
「アクロシティ……人がいっぱいいるんだよね?」
「ああ、エミルもタイタニアもドミニオンも色々な人が集まる大都市だよ」
 カイルは色々な話をした。自分のしてきた冒険の話や、様々な町や自然の風景など。
 そうなると当然、仲間のことも話題に上がる。
「あれ、でもカイルさんの仲間って、どこにいるの?」
 だから、こういう質問が飛んでくるのは当然のことだった。
 カイルは押し黙ると、食卓へと視線を落とした。
「仲間は、もういないんだ……」
 言うべきか悩んだ。でもカイルは正直に話すことにした。自分の旅の目的を。
 イーストダンジョンで出会った黒いモンスター、殺された仲間、自分を助けてくれたミリィの父親のこと。
 話を聞いていたミリィは泣きそうになっていたが、父親の話題が出るとかすかに目を見張った。
「お父さんが?」
「ああ、俺を助けてくれたんだ。その黒いモンスターを追って、すぐにどこかへ行ってしまったんだけどな」
 そこでふと、あることを思い出した。
 ミリィの父親が黒いモンスターに向かって叫んでいた言葉。
「なぁ、ミリィ。サーニャって名前に心当たりはあるか? お前の父親が黒いモンスターに向かって叫んでいた言葉なんだけど」
「…………え?」
 それは劇的な反応だった。ミリィは大きな瞳をさらに大きく見開くと、震える唇で何かを呟いた。
「…………ん」
「え?」
 聞き取れなかったカイルは身を乗り出して、ミリィの言葉を拾う。
 搾り出すようにして出てきた言葉、それは――
「お、母さん……?」

CROSS SONG 第五話

 写真に写る大柄の男。それは少年が追っている男だった。
 目の前で悲しみに瞳を落とす少女は、あの男の娘?
 見失ったと思われていた手がかりを思わぬところで見つかり、少年の心がカッと燃え上がる。
 今にも目の前の少女を問い詰めたい気持ちになるが、相手がまだ自分より幼い子供だと思うと、気が引けてしまう。
 少年は大きく息を吐き出して、昂ぶる心を無理やり落ち着かせた。
「あ、あの、大丈夫?」
 心配そうに見つめてくる少女に、少年はなんとか微笑を返すと、自分がまだ名前すら名乗っていないことに気がついた。
「……俺はカイル。カイル・ルビナス。助けてくれたこと、感謝してる。ありがとう」
「あ、私、ミリィです。ミリィ・レスペン」
 少女、ミリィも慌てて名乗りを返し、頭を下げる。
 カイルは写真へと視線を向け、そこに写っている男を再び見つめる。
 歳で言えば40後半ぐらいだろうか。温和な笑顔を浮かべる大柄な男。見間違いなどではなかった。確かにイーストダンジョンでカイルを助けてくれたのは、この男だった。
「ミリィ、お前の親父は家を出て行ったって言ったよな? ここにはお前一人で住んでるのか?」
「えっと、この家には私一人だけど、家の外には家族みたいな人や友だちがいっぱいいるの」
「……?」
 どういうことだろうか。この辺りは森林地帯で、野生のモンスターの生息地でもあり、人が住んでいることなどないはずなのだが。
「家族みたいな人って、どんな奴らなんだ?」
「えっ、人じゃないよ?」
「エミルじゃない? タイタニアかドミニオンか?」
 カイルの言葉にミリィは首を振る。
 ますますワケが分からなくなるカイルに、ミリィは自慢の宝物を見せるかのような無邪気な笑顔を浮かべる。
「えっとね、ネネのおばさん、リーンのお医者様と……」
 指折り数えていくミリィ。その名前は十を超え、最後に意外な名前を口にした。
「あと、Gコッケーお爺ちゃん!」
「は?」
 Gコッケーといえば、アクロニア海岸付近に生息しているコケトリスたちのボスのことだ。人の姿を見るやすぐに襲い掛かってくる獰猛な性格は多くの駆け出しの冒険者たちを震え上がらせたものだが。
「ちょ、ちょっと待て。お前、今Gコッケーって言ったよな? もしかしてモンスターのGコッケーのことか?」
「モンスター?」
 首を傾げるミリィに、カイルは頭をかきむしる。普通に考えればモンスターなわけがない。だが、そんな奇特な名前の人がいるというのか? それこそありえない。
 じゃあ、Gコッケーお爺ちゃんとは、何を意味しているのか?
「あー、くそ。じゃあ、この辺りで一番偉い人を呼んできてくれねぇか? 色々と聞きたいことがあるんだ」
 もし人が住んでいるのなら、色々と話を聞きたかった。ミリィの父親についても色々と話を聞けるかもしれないのだ。
「えっと、ここで一番偉いのは、Gコッケーお爺ちゃんだよ? じゃあ、お爺ちゃんを呼んで来るね」
 ミリィは立ち上がると、ぱたぱたと足音を響かせて家を飛び出していった。
 果たしてGコッケーお爺ちゃんとは何者なのか。
「まぁ、会えば分かるか」
 これ以上考えても分からないものは分からないのだ。
 カイルはベッドに横たわると、目を閉じた。今は少しでも早く体力を回復させることを考えなければいけない。
 やがてドアが開き、ミリィが顔を出した。
「お爺ちゃん、呼んで来たよ」
 カイルは目を開けると、ミリィの方へと視線を向ける。しかし肝心のGコッケーお爺ちゃんというのが見当たらない。
「えっと、その爺さんはどこにいるんだ?」
 問いかけると、ミリィはすっと家の外を指差した。
 ミリィの指が指し示す方を見ると、
「っ!?」
 カイルは大きく目を見張った。
 家の外、ミリィの横にはまさにモンスターのGコッケーが佇んでいるではないか。
「あ、危ねぇ! 早くそいつから離れろ! 襲われるぞ!」
 慌てて声を張り上げるが、ミリィは不思議そうに首を傾げるばかり。
「襲うって、誰が誰を襲うの?」
 ミリィの言葉通り、Gコッケーはミリィに襲い掛かる気配はなく、じっとカイルの方を見つめている。
「ペット? いや、ブリーダーの奴らでもGコッケーをペットにすることなんて出来なかったはず」
「お爺ちゃん、体が大きくて家の中に入れないから私がカイルさんの言葉をお爺ちゃんに伝えてあげるね。カイルさんは何が聞きたいの?」
「何って、その……」
 まさかの展開に二の句を告げないカイルに焦れたのか、Gコッケーが短く鳴いた。
「え? うん、大丈夫。悪い人じゃなさそうだったよ。うん、分かった」
 Gコッケーの鳴き声に、頷きを返すミリィ。
 もしかして、Gコッケーの意志が伝わっているのか? いや、それだけじゃない。まるで二人の間に会話が成立しているかのようにGコッケーは鳴き、ミリィがしゃべる。
 言うことを全て伝えたのか、Gコッケーはのそのそと森の中へと戻っていく。
「えっと、今のがGコッケーお爺ちゃんです」
 家の中へと戻ってきたミリィは再びベッド横の椅子へと座った。
「お爺ちゃんが、カイルさんの体が元気になるまで、ここでゆっくり休んでいくといいって言ってくれたの」
「え、あ、ああ……」
「カイルさんって外の世界から来たんだよね? 外のこと、いっぱい聞きたいな」
 好奇心に瞳を輝かせて無垢に笑うミリィの姿に、カイルは一瞬だけ恐怖にも似た感情を抱いた。
 モンスターと共に在り、モンスターの言語を理解する少女。
 一体、ミリィは何者なのか。そして黒いモンスターに、消えたミリィの父親。
 まだまだ分からないこと、知りたいことは沢山あったが、今はまず体を休ませることが必至だと判断する。
 それにミリィから彼女の父親について色々聞くチャンスもあるかもしれない。
「それじゃあ、短い間だが世話になるよ」
「はい、よろしくです♪」
 ニコリと微笑み、手を差し出してくるミリィ。その小さな手を握り返しながら、カイルはこれからの生活に不安を感じずにはいられなかった。

CROSS SONG 第四話


 驚きのあまり家を飛び出したミリィは、家の外で様子を窺っていたGコッケー爺へと抱きついた。
『コケーッ』
「う、分かってるもん……。ちょっとびっくりしただけだもん」
 Gコッケー爺が呆れとも笑いとも取れる声で鳴くと、ミリィはぷぅと頬を膨らませる。
 ミリィはそっと、自分の家の方へ視線を向ける。自分の知らない人間、お父さん以外で初めて見る人間。
 彼は何者なのだろうか。背中にはコウモリのような黒い羽があった。羽の生えた人間なんて、ミリィは見たことがない。
 だからこそ知らない人間に接することへの恐怖と好奇心がミリィの心でせめぎあっていた。


 森の中で少年が倒れていると知らせてきたのはバウだった。ひどい怪我で、このまま放っておいたら危ないというバウの言葉に、ミリィは慌てて少年のところへと向かったのだ。
 バウの言う通り、少年の怪我はひどく、しかしそれ以上に生気を吸い取られたかのように衰弱が激しかった。
 浅い呼吸、額に浮かぶ珠のような汗、顔色は青を通り越して白くすらある。
 走ってきたのはいいが、どうすればいいか混乱するミリィに、Gコッケー爺は的確に指示を出してくれた。
 エルダーワームを呼んで来て、少年にヒーリングをかける。
 モクジュとグリーンプルルには熱冷ましの薬草を煎じてもらい、でかクローラーには少年をミリィの家まで運んでもらった。
 そして介抱しているうちに、いつしか眠ってしまったのだ。
 目が覚めたとき、少年は既に起きていて、その真紅の瞳がじっとミリィを見つめていた。
 その赤い瞳に見つめられていると、ミリィは落ち着かない気持ちになった。
 恥ずかしさと怖さと好奇心と――様々な感情がごちゃ混ぜになり、ミリィは思わず家を飛び出してしまった。


『コケーッ』
「う、うん……」
 家に戻るように言うGコッケー爺に怖々と頷くと、ミリィはゆっくりと……まるで未知のダンジョンに足を踏み入れる冒険者のような足取りで家までの距離を歩いていった。



 ガチャリと、ドアが開く音。
 ドアがゆっくりと開かれ、そこに出来た隙間から先ほどの少女が顔を覗かせていた。
 まるでモンスターを警戒するかのように、家の中に入ってくることはなく、その隙間からじっと少年のことを観察している。
(さて、どうしたものか……)
 先ほどの様子からして、少女が少年を怖がっていることは確かだろう。
 色々と話を聞きたかったが、この様子ではとても話など出来るはずもない。
 少女の親はどうだろうか。さすがにこんな森の奥深くに少女が一人で暮らしているはずもない。
 当然、少女と共に暮らす誰かがいるはずだ。その人と話が出来れば。
 と、そこまで考えたとき、意を決したかのように少女が家の中に入ってきた。
 小柄で可愛らしいエミルの少女だった。家の中に入ってきた少女はおっかなびっくりという感じでベッド脇の椅子へと座った。
 全身が強張っているのが分かる。
(そこまで怖がられると、さすがに傷つくな……)
 どう声をかけるべきか、考えをまとめていると、
「あ、あの……」
 驚くことに、少女の方から声をかけてきた。
「えっと、森に倒れてたので、その」
「お前が介抱してくれたのか?」
 あたふたする少女に苦笑をこぼしながら、少年は尋ねた。
「あ、はい。みんなが手伝ってくれて……」
 みんな、つまり少女の家族だろうか。しかし家の中には少女の姿しかない。
 では家族はどこへ?
 と、そこで少女がじっと自分の背中の方を見つめていることに気付く。
 視線を向けると、そこには黒い羽がある。
 少年は少しだけ羽を動かして見せた。
「わ、わわ」
 驚きの声をあげる少女。
「お前、ドミニオンを見るのは初めてなのか?」
「ド、ミニオン?」
 小首を傾げる少女。
 まさかそんなことも知らないのか、と少年は心の中で驚きの声をあげる。
 この世界にはエミル、タイタニア、ドミニオンと三つの種族が存在している。元々この世界にはエミル種族しか存在していなかったのだが、こことは異なる世界――タイタニア世界やドミニオン世界からゲートを通じて、この世界へと各種族たちがやってきた。
 タイタニア世界の一部を除き、いまや三つの種族の交流は良好なもので、どこの町でもタイタニアやドミニオンの姿を見ることが出来るようになっている。
 そのことを少年は少女へと説明した。
「はぁ、凄いんですね……」
 いまいちピンと来ないのか、少女は気の抜けたような返事を返してくる。
「町に行けば、色々な種族と出会うことが出来るさ」
「町、ですか?」
「ここからだと、ファーイーストが近いか。町ぐらいは行ったことあるんだろう?」
 しかし少年の言葉に少女は首を振った。
「お父さんに、森から出ちゃいけないって言われてるから」
「おいおい、マジかよ……」
 少女の言葉に少年は目を見張った。
 こんな野生のモンスターが生息している森の中に、少女を一人残しているというのか。
「それで、お前の父親は?」
 さすがに文句の一つでも言ってやろうと、少年は少女に尋ねる。
「お父さん、出て行っちゃった……」
 しかし少女は悲しみに顔を曇らせると、テーブルに立てられた写真立てを見る。
「す、すまない……」
 まさか捨てられたのか、いやクエストで遠いダンジョンまで出て行っただけなのかもしれない。
 しかし――
 まだ子供と言ってもいい年齢の少女を一人残していくというのか。
 少年はそんな非情な親を一目見てやろうと、写真立てに視線を向ける。
「――な」
 写真には、少女と彼女の父親らしき大柄の男性の姿が映っている。
 そして、その男性に少年は見覚えがあったのだ。
 イーストダンジョン、自分を投げ飛ばした謎の男。
 写真に映っている男は、まさにその謎の男だったのだ。

CROSS SONG 第三話


 全てが充実していた。
 仲間たちと一緒に冒険し、強敵と戦い、クエストをこなす。
 そこには喜びも、怒りも、悲しみも、あらゆる感情が存在し、その全てが少年にとってかけがえのないものとなっていた。
 これからも、彼らと共に生きていくのだと。少年は何も疑わずにいた。
「約束ね」
 差し出された小指。はにかんだ少女の顔。
 少年は少女の小指をじっと見つめた。それが何を意味しているのか分からなかったから。
 少年と少女は生まれた世界が違う。だからその世界での慣習というものも違うのだ。
「指きり、知らないの?」
 小首を傾げる少女に、少年は気まずそうに頷く。
 少女はくすりと笑い、指きりの意味を教えてくれた。
 それは約束を守るための儀式だという。小指と小指を絡ませ、約束事を口にし、指をちぎる。
 少年は照れくささを感じつつも、不思議と嫌な感じはしなかった。絡ませた小指を通して伝わってくる温もりが心を穏やかにしてくれるようだった。
「いつか、君に私の故郷を案内してあげる」
 そう言って、微笑んだ少女の顔は今でも忘れられない。

 だが、

 全ては唐突に奪われたのだ。
 イーストダンジョンの奥深く、見たこともない謎のモンスターによって。
 吹き荒れる黒い嵐。仲間達の悲鳴。そして苦悶に満ちた死に顔。そこにはあの少女の姿もあった。
 黒い何かは、二対の赤い瞳でじっと少年を見つめていた。


「っ!」
 悲劇の瞬間を思い出したせいか、夢うつつだった意識は急速に浮上を始める。
 目を開ける。まず視界に入ったのは見知らぬ天井だった。
 背中が柔らかい。どうやらベッドか何かの寝具に寝かされているようだった。
「ここは……」
 体を起こそうとして、至るところで走る激痛に顔を歪める。
 再びベッドに身を沈め、そこでようやく自分のすぐそばにいる小さな存在に気付いた。

004.jpg


 視線だけを向けると、ベッドの端に頭を乗せて小さな少女が眠っていた。
 この少女が自分を介抱してくれたのだろうか。
 現状を説明してほしかったが、目の前で気持ちよさそうに寝息を立てている姿を見ると、起こすのも気が引けてしまう。
 少年は視線だけを動かして、自分がいる場所を確認する。
 小さな木造の家。窓から鬱蒼と茂る木々が見えた。
 木で出来たテーブルには小さな木製の篭が置いてあり、そこからはキノコや果実などが入っているのが分かった。家具なども生活に必要なもの以外はほとんどなく、がらんとした家の中がやや寂しさを感じさせる。
「う、ん……」
 少女が身じろぎする。
 少女はゆっくりと顔を上げると、ぼーっと少年の顔を見つめてきた。
 寝ぼけているのか、その瞳はどこか空ろだ。
 やがて意識がはっきりしてきたのか、少女ははっと目を見開く。
「あ――」
 少年が何か声をかけようとした瞬間、
「っ!」
 少女はベッドから飛ぶようにして下がると、脱兎のごとく家を飛び出していった。
「お、おい……」
 語る言葉を失った少年は呆然と、少女が出て行ったドアを見つめるのだった。
遊びに来られたお客様
☆はじめに☆
このページ内におけるECOから転載された全てのコンテンツの著作権につきましては、株式会社ブロッコリーとガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社および株式会社ヘッドロックに帰属します。 なお、当ページに掲載しているコンテンツの再利用(再転載・配布など)は、禁止しています。
プロフィール

ナン☆

Author:ナン☆
年齢:24歳
誕生日:6月22日
血液型:A型
活動鯖;フリージア

どうぞ、ゆっくりしていってくださいな♪

画像(麻衣)はメイファスさんが描いてくれました♪
ありがとうございます^^

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ECO SNSに登録してます。 登録名は*レンシア*です。 色々な人とお話してみたいなーと思っていますので、フレ申請などお気軽にどうぞ♪
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ECO友イベントとは、チャットルームで色々な人と楽しくおしゃべりしながら季節&フシギ団イベントなどをやろうというコミュニケーションイベントです♪ 初心者、熟練者問わず、色々な人とお友だちになりたい、なって欲しいという願いから行ってます。大体は日曜日20時からフリージア鯖にてやっております。イベント当日は情報と専用茶室を上げてますので、参加希望者は遠慮せず声をおかけください^^
FC2小説
こちらにも『ナン』で小説を登録しています。 ECOとは無関係な作品ですが、よければご覧下さい。 著者名検索で『ナン』と打っていただくか、作品検索のフリーワードのところに『ブレインキラー』と打っていただければ見つかると思います^^ http://novel.fc2.com/
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