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『星降る夜に、花束を』 第1話 「なくしもの」 その4

 実験の準備は淡々と進んでいった。
 ナンはミフィに案内された部屋で寝台に横たわっていた。
 部屋は染み一つない真っ白な壁に閉ざされている。
 目を開けていると、頭が痛くなりそうだったのでナンは目を閉じて、実験の開始を待っていた。
 やがて、
『今機材の最終調整を行っている。もう少し待ってくれたまえ』
 壁に備え付けられたスピーカーからミフィの声が発せられる。
『気分はどうだい? といっても緊張するなという方が難しいか』
「まぁね……まるでモルモットの気分よ」
 スピーカーはナンの声も拾うらしく、ミフィはくつくつとかみ殺したような笑い声をスピーカーから返してきた。
「まぁ、そう言うな。お前も思い出したい何かがあったから、あたしの依頼を受けたのだろう?」
「…………それは」
「ただ最初に注意しておこう。これはまだ試作機でな。必ずしも君の希望する情報が再生されるとは限らないのだよ。思い出すのは、一日か二日前の些細な出来事かもしれない。もしくは一年前に食べたお昼ご飯かもしれない。何を思い出すのかは、私にも分からないのだよ」
「うん、それでも過去を思い出すことが出来る確率が一%でもあるのなら、私はやってみたい」
 そう、何でもいいのだ。ナンには過去の記憶がごっそり抜け落ちている。その一部を取り戻せるというのなら、そしてそれが千夏に繋がっているというのなら、
(怖がってはいられないよね……)
 心の中でそっと呟き、ナンは呼吸を整えた。
「そうか。ではそろそろ実験を始めようか」
 ピッと電子音が鳴ると、ナンから見て左側の壁が中央付近から左右へとスライドしていく。
 そして現れたのははめ込み式のガラス。その向こうでは機械を操作しながら、こちらの様子を窺うミフィの姿があった。
「では今からナノマシンを注入する」
 ミフィがそう言うと、壁から機械のアームが伸びてくる。その先にはシリンダーらしきものが握られているのが見える。
 アームはゆっくりとナンの首元へと伸びてくる。そして首元に何かを押し当てられる感触。ついでチクリと一瞬痛みが走る。
 痛みに顔を歪める前に唐突に眠気が襲ってくる。どうやらナノマシンと一緒に睡眠導入剤でも入れられていたようだった。
 意識が闇に閉ざされる前にナンは千夏へと視線を向ける。千夏は心配そうにナンのすぐそばに寄り添っている。
 行って来る、ね。
 声になったかは定かではないが、ナンは千夏へと微笑みかけると、そのまま意識を失った。


「貴方は……私と同じ、ね」
 どこかからか聞こえてくる声。それは自分によく似た声。でもしゃべり方もトーンも少し違う。まるで自分の声で誰か自分ではない人がしゃべっているかのような。
「貴方は誰にも殺させない。私と行こう」
 視界は闇に閉ざされている。でも『私』の目の前に誰かがいて、私じゃない『私』の声に戸惑っているのが伝わってくる。
「大丈夫、貴方は私が守る」
 『私』が目の前の誰かに向かって手を差し伸べる。
 目の前の誰かは逡巡しながらも恐る恐るその手を――
 そして世界は反転する。

「夏姉さま!」
 悲痛な少女の叫び。
 いつしか視界は闇から赤へと変わっていた。
 燃え広がる炎、そして周囲に飛び散る夥しい量の血液。
 そこは戦場だったのか、いくつもの屍が大地に横たわり、炎に焼かれている。
 そして『私』の前には一人の少女が立っていた。
 白い着物のような服をまとった黒く長い髪が印象的な少女だった。
 年のころは十五、六。着物と同じく雪のように真っ白な肌が炎に照らされて赤々と輝いている。
 少女の瞳からは大粒の涙をこぼれ、驚愕と怒りと怨嗟と様々な感情を込めた瞳で『私』を睨みつけている。
「……せない」
 少女が何事かを呟く。
 私は何かを言おうとした。でもやはり私の意志は『私』の体に干渉することが出来ない。
 だから、きっとこれは過去に起きた出来事なのだ。ナノマシンによってランダムに再生される映像を見ているということなのだろう。
「許せない……」
 少女の声は冷たく、固い。体を小さく震わせながら、しかし力のこもった声で、瞳で、『私』を責め続ける。
「どうして、夏姉さまを殺したの! ノン姉さま!」
 そこで再び世界が反転する。
 次に広がる光景は――

 それはどこかの崖の上だった。高い位置にあるのだろう。目を凝らせば崖の遥か下に川が流れているのが分かる。あたりは山々に囲まれ、ここがどこなのかは分からない。
 頭上には雲と雲の隙間から欠けた月が顔を覗かせていた。風はなく、辺りはシンと静まり返っている。
「ノン……」
 そんな静寂をそっと切り裂くかのように声が発せられる。
 『私』の前には闇色の衣装をまとった白髪の少年が佇んでいた。
 右目を眼帯で覆い、散切り髪は月の光を受けて、青白く輝いている。
「何故、命を背いた……」
 少年は静かに、問いかける。
「…………」
 だけど『私』はそれに何を答えるでもなく、ただそっと首を振る。
 少年も『私』が何も答えないことを予想していたのか、そうかと頷くと、懐から短刀を引き抜いた。
「お前に遺恨はないが、これも任務。許せ」
「……貴方は私を殺してくれるの?」
 そこで初めて『私』が口を開いた。その声は暗く、生気が感じられない。まるでこの世の全てに絶望して、どこにも救いがないのだと理解したときの声のような。
「それがお前の望みか」
「殺して……私を殺して……」
 私には分かった。『私』が死を望んでいることを。死ぬことでこの世の苦痛から解放されることを願っていることを。
「……わかった」
 少年が頷き、そして衝撃が胸を貫いた。『私』の胸を貫いているのは少年が握っていた白銀の短刀。それは根元まで深々と刺さり、刺された箇所を中心に真っ赤なシミが服を染め上げていく。
 急速に全身の力が抜けていく感覚。体の末端から感覚が消失していく。
 そのとき私の心の中に『私』の想いが流れ込んできた。
(死ぬのだろうか? いや、死ねるのだろうか?)
(守るべき人を守れず、ただ屍のように生きてきたこの苦痛から、解放されるのだろうか?)
 『私』の体はそのまま数歩後ずさり、そのかかとが虚空を踏み抜く。
「これで……終われる……ごめんね、夏……」
 消失していく体が感じる最後の浮遊感。ごうごうと凄まじい風の音を聞きながら、『私』はそのまま闇の中へと身を――

「……じん! ご主人!」
「っ!?」
 誰かに呼びかけられ、ナンはハッと目を覚ました。
 ここもまた夢の中だろうか?
 試しに指先に力を込めてみる。動く。
 ついで周囲へ視線を向ける。そこには真っ白な壁があり、そして瞳に目一杯の涙を浮かべる千夏の姿があった。
「ち、なつ……」
「あぁ、良かった! 目、覚ました!」
「ここは……?」
「どうやら意識が戻ったようだね」
 いつの間に部屋に入ってきたのか、靴の音を響かせながらミリィがやって来る。
「どうだったかな、過去の追体験は」
「…………分からない。あれが、私の過去?」
 だとするなら、それはなんて残酷で、悲しいものなのか。
 あの世界での『ナン』が感じていたのは底なしの空虚と、深い絶望、そして悲しみ。
 あの世界の『ナン』は自身の死を、終わりを望んでいた。そして死んだのだ。自分の歩んできた道、記憶を道連れにして。
 だからきっと今ここにいるナンは、かつてのナンの搾りカス。
「ご主人、大丈夫? 凄い汗やで?」
 顔を覗きこんでくる千夏に、微笑で答えると、ナンはふらつく体を堪えて立ち上がった。
「無理はしない方がいい。まだ横になっていたまえ。記憶を無理やり引っ張り出してきたのだ。脳への負荷も大きいはずだ。立っているのもやっとなはずだよ」
 ミフィの言う通り、ナンは激しい虚脱感と頭痛に苛まれていた。
「虚脱感はじきに薄れてくるとは思うが、ナノマシンが全て体外へと放出されるまで、今のように過去の映像が突然蘇ってくることがあるかもしれん。どうだろう、しばらくうちに泊まっていかないか? あたしもデータが取れて、その方が助かるしな」
「……でも私は」
 ちらりと千夏の方を窺う。すると千夏はなお心配げな顔をしていて、
「ご主人、とりあえず今日は泊まっていこ? 顔真っ青やで?」
「……うん」
 千夏をこれ以上心配させるのも気が引け、ナンはミフィの提案に頷いたのだった。
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