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『星降る夜に、花束を』 第2話 「恋獄」 その3

 女性の言葉に真っ先に我へと帰ったのはカイトだった。
 カイトは胡乱な瞳で女性を見返した。
「殺しにって……お前、殺人は重罪だぞ?」
「そ、そうですよぅ~」
 ミシャも慌てて追従してくる。
 しかし女性は諦観にも似た笑みを浮かべるだけだった。
「俺たちで良ければ話を聞いてやる。だから思い直すんだ。どんな男か知らないが、下らない男のせいで人生を棒に振ることもないだろう?」
「っ! あの人は下らなくなんかっ!」
 カイトの言葉に、女性が声を荒げる。その意外な反応に、カイトは目を瞬かせた。
「なぁ、ご主人……」
「うん、何か様子が変ね」
 人を殺す、と言う割りに女性の言葉からは敵意や憎悪といった感情は感じられない。
 むしろ、その相手を慈しむような響きさえ感じられる。
「事情を聞いてもいい? 私たちで力になれることがあるかもしれないし」
 ナンの言葉に女性は目を伏せ、何事かを考えている様子だった。
 やがて女性は視線をナンたちへと戻すと、事の始まりを語り始めた。
「貴方達はベーリック号という客船をご存知ですか?」
 ベーリック号。それはナンだけでなく、恐らくはアクロニア中の人が痛ましい記憶として心に刻んでいる単語だろう。
 遠く離れた地へ移動するには飛行庭が用いられることが多いが、もう一つの移動手段が船だった。飛行庭より運賃が安く、主に民衆に人気のある移動手段でもある。
 ベーリック号もそんな客船の一つで、アイアンサウスからトンカを結んでいた。
 そして去年の冬。
 ベーリック号は航海中に嵐に巻き込まれ、海へと沈んだ。中に乗っていた五百人という命を道連れにして。
「おいおい、まさか怪異の中に出てくる謎の船が、そのベーリック号だっていうのかよ」
 カイトの言葉に、女性は深く頷いた。
「ちょ、ちょっと待ってよっ! 沈没したベーリック号がどうしてウテナ湖なんかにっ」
「それは分かりません。ですが、夜になると霧と共にこのウテナ湖にベーリック号が現れるのは確かです。私自身、目にしていますから」
「えっとぉ、じゃあ霧の中をさ迷う人影というのはぁ、ベーリック号に乗っていた人たちってことですかぁ? わわわ、幽霊船と幽霊ってことですねぇ」
「おいおい、幽霊や幽霊船なんてあるわけないだろう」
 本気で信じ込んでいるミシャに対して、カイトはいまだ半信半疑という感じだった。
「じゃあ、貴方が殺しに来た恋人っていうのは、まさか」
「ええ、その船に乗っていました。彼の魂はいまだ船に囚われているんです。だから私は彼を殺しに来たんです。その魂を浄化するために」
「…………はぁ」
 女性の言葉に深くため息を吐いたのはカイトだった。
「阿呆らしい。そんな与太話に付き合ってられるか」
 そう言って、女性に背を向けて歩き出す。
「ちょ、ちょっとぉ、カイトさん~?」
 慌ててその後を追いかけるミシャ。ナンはそんな二人の背中を見送りつつ、いまだにその場に留まっていた。
 確かに突拍子もない話だ。カイトの反応も当然のように思える。だが、ナンは何故かこの女性の言葉を疑うことが出来なかった。
 それはきっと、女性が湖を見つめていたときの憂いに満ちた表情。その中から覗く空虚な何か。それを感じてしまったから。
 それが自分の中の何かと重なった気がしたのだ。
「それじゃあ、私も失礼します」
 沈黙するナンにぺこりと一礼し、女性は湖を去っていった。
「ご主人……」
 気がつくと、千夏が今にも泣き出しそうな表情でナンを見つめていた。
「千夏……?」
「ご主人のそんな顔、うち見たくない……」
 千夏に言われて、初めて湖面に映る自分の顔がひどい顔をしていることに気付いた。
 悲しみと絶望と空虚。それらが混ざり合って一つの形を成したような表情。
 女性が浮かべていた表情より、さらに暗い影を落としている。
「ご主人……」
「ごめん、千夏。もう大丈夫」
 心配する千夏に微笑みかけ、ナンはカイトたちの後を追いかけた。
 女性の言葉が本当なのかどうか、それは今晩はっきりとするだろう。
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